森山のセンター国語全問詳解 ~2016(一)評論~

*問一  (ア)3 (イ)5 (ウ)5 (エ)3 (オ)5  各2点
(ア)繕う  1漸増 2全容 3営繕 4然   5禅
(イ)収束  1反則 2促進 3閉塞 4即発 5束縛
(ウ)顧みて 1故意 2古式 3鼓舞 4孤独 5顧慮
(エ)回避  1大会 2大海 3転回 4外界 5開陳
(オ)縮減  1祝し 2粛々 3宿敵 4淑女 5緊縮
同音異義語(転回-展開)、難語(営繕、顧慮、縮減)弾劾)、間違いやすい字(閉塞)に注意。
*問二  1  8点
傍線部A「リカちゃんの捉えられ方が変容している」とあるが、それはどういうことか。
▼本文第1段落「かつてのリカちゃんは、子どもたちにとって憧れの生活スタイルを演じてくれるイメージ・キャラクターでした」「設定されたその物語の枠組のなかで、子どもたちは『ごっこ遊び』を楽しんだ」
▼本文第2段落「平成に入ってからのリカちゃんは、その物語の枠組から徐々に解放され、・・・別キャラクターを演じるようにもなっています」
▼本文第4段落「キャラクターのキャラ化は、・・・それぞれの対人場面に適合した外キャラを意図的に演じ、複雑になった関係を乗り切っていこうとする現代人の心性を暗示している」
◆すなわち「過去のリカちゃんは共通した設定の枠組みの中で共通の生活スタイルを演じるイメージ・キャラクター」「現在のリカちゃんは共通の設定の枠組みを離れ個々に別々の場面で別々のキャラクターを演じる役割をもつもの」
◆以上より選択肢1が正解。「かつては、憧れの生活スタイルを具現するキャラクターであったリカちゃんが、・・・その場その場の物語に応じた役割を担うものへと変わっている」
*選択肢2「多くの子どもたちの『ごっこ遊び』に使われることで・・・異なる物語空間を作るものへと変わっている」が×。「ごっこ遊び」はかつてのリカちゃんの遊び方。
*選択肢3「平成になってから・・・国民的アイドルといえるものへと変わっている」が×。第1段落で「世代を超えた国民的アイドル」と述べている。
*選択肢4「リカちゃんが・・・より身近な生活スタイルを感じさせるものへと変わっている」が×。「別キャラクターを演じる」と「より身近な生活スタイルを感じさせるもの」は同じ意味ではない。
*選択肢5「自由な想像力を育むイメージ・キャラクターとして評価されるものへと変わっている」が×。「イメージ・キャラクター」であったのはかつてのリカちゃん。
*問三  2  8点
傍線部B「人ぴとに共通の枠組を提供していた『大きな物語』」とあるが、この場合の「人ぴと」と「大きな物語」の関係はどのようなものか。
▼本文第4段落「(現代)人びとに共通の枠組を提供していた『大きな物語』が失われ、価値観の多元化によって流動化した人間関係のなかで、それぞれの対人場面に適合した外キャラを意図的に演じ、複雑になった関係を乗り切っていこうとする」
▼本文第5段落「(現代)人びとに共通の枠組を提供していた『大きな物語』が失われ、価値観の多元化によって流動化した人間関係のなかで、それぞれの対人場面に適合した外キャラを意図的に演じ、複雑になった関係を乗り切っていこうとする」
▼本文第6段落「(過去)『大きな物語』・・・のなかでアイデンティティの確立が目指されていた時代に、このようにふるまうことは困難だった」「アイデンティティとは、外面的な要素も内面的な要素もそのまま併存させておくのではなく、揺らぎをはらみながらも一貫した文脈へとそれらを収束させていこうとするもの」
▼本文第9段落「私たちの日々の生活を顧みても、ある場面にいる自分と別の場面にいる自分とが、それぞれ異なった自分のように感じられることが多くなり、そこに一貫性を見出すことは難しく・・・それらがまったく正反対の性質のものであることも少なくありません」
◆すなわち「本来人間が持っている要素は異なり一貫性を見出すことが困難なものである」「それを、過去においては、それぞれ異なる外面的要素も内面的な要素も一貫したアイデンティティー(人格)へと収束するもの」=「大きな物語」
◆以上より選択肢2が正解。「人びとは・・・『大きな物語』を共有することで、自己の外面的な要素と内面的な要素との隔たりに悩みながらも、矛盾のない人格のイメージを追求していた」
*選択肢1「臨機応変に複数の人格のイメージを使い分けようとしていた」が×。「臨機応変」は「現代」を示す用語。
*選択肢3「社会的に自立した人格のイメージを手に入れようとしていた」が×。「社会の自立」に関しては本文中に記述なし。
*選択肢4「生まれもった人格のイメージを守ろうとしていた」が×。「生まれもった人格のイメージ」に関しては本文中に記述なし。
*選択肢5「個別的で偽りのない人格のイメージを形成しようとしていた」が×。「個別的」は「現代」を示す用語。
*問四  4  8点
傍線部C「生身のキャラにも、単純明快でくっきりとした輪郭が求められる」とあるが、それはなぜか。
▼本文第10段落「生身のキャラの場合も同様であって、あえて人格の多面性を削ぎ落とし、限定的な最小限の要素で描き出された人物像は、錯綜した不透明な人間関係を単純化し、透明化してくれる」
▼本文第11段落「また、きわめて単純化された人物像は、どんなに場面が変化しようと臨機応変に対応することができます。」
▼本文第13段落「複雑化した人間関係の破綻を回避し、そこに明瞭性と安定性を与えるために、相互に協力しあってキャラを演じあって・・・人間関係の見通しを良くしようとしている」
◆すなわち「本来人間が持っている要素は異なり一貫性を見出すことが困難なものである」ので、あえて「キャラを単純化させる」ことによって「錯綜した不透明な人間関係を単純化し」「臨機応変に対応することができ」「明瞭性と安定性を与え」「人間関係の見通しを良くしようとしている」
◆以上より選択肢4が正解。「人間の場合も、人物像の構成要素が限定的で少ないほうが、人間関係が明瞭になり、様々な場面の変化にも対応できる」
*選択肢1「人間の場合も、人物像が単純で一貫性をもっているほうが・・・、互いの異なる価値観も認識されやすくなる」が×。「人物像」全体が単純なのではなく、構成要素が単純。また「互いの異なる価値観の認識しやすさ」は問題とならない。
*選択肢2「他人と交際するときに自分の性格や行動パターンを把握されやすくなるから」が×。本文中に記述なし。
*選択肢3「人物像の多面性を削る」が×。「構成要素」を単純にする。また「文化の異なる様々な国での活躍」は本文中に記述なし。
*選択肢5「人物像が特定の状況に固執せずに素朴であるほうが」が×。本文中に記述なし。
*問五  2  8点
次に示すのは、この文章を読んだ五人の生徒が、「誠実さ」を話題にしている場面である。傍線部D「価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。」という本文の趣旨に最も近い発言を選べ。
▼本文第14段落「したがって、外キャラを演じることは、けっして自己欺瞞ではありませんし、相手を臨すことでもありません」「ある側面だけを切り取って強調した自分らしさの表現であり、その意味では個性の一部なのです」
▼本文第15段落「その意味では、自分をキャラ化して呈示することは、他者に対して誠実な態度といえなくもない」「価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえない」
◆すなわち「自分の一部・側面を切り取ってキャラを作る・演じることは欺瞞や嘘ではなく、本当の個性の一部である」「複雑化した人間関係に明瞭性と安定性を与えるために、単純なキャラ設定をするのは、誠実な態度と言える」「誠実さの基準は変わりうるので自分をキャラ化するのは誠実」
◆以上より選択肢2が正解。「状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がない・・・キャラを演じ分けることも一つの誠実さだ」
*選択肢1「自分の中に確固とした信念をもたなくてはいけない」が×。「キャラ」という部分の提示を認めている。
*選択肢3「いろんなキャラを演じているうちに、自分を見失ってしまう危険がある・・・どんなときでも自分らしさを忘れないように意識すべきだと思う」が×。本文中に記述がない。
*選択肢4「自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実なことだと見なされている」が×。「自分を出すことが不誠実」とは本文中に記述がない。
*選択肢5「他者に対する誠実さそのものが成り立たない時代に来ている」が×。「誠実さ」は基準を変え存在する。
*問6①  1  4点
この文章の第1~5段落の表現に関する説明として適当でないものを一つ選べ。
◆選択肢1が正解。
*「第1段落の第4文の『生活スタイルを演じてくれる』という表現は、『~を演じる』と表現する場合とは異なって、演じる側から行為をうける側に向かう敬意を示している。」
*ここで「演じる側」はリカちゃんなので、この選択肢では、リカちゃんが購入者に対し敬意を示すことになるので、おかしい。
*問6②  3  4点
この文章の第7段落以降の構成・展開に関する説明として適当でないものを一つ選べ。
◆選択肢3が正解。
*「第12段落では、百貨店やコンビニエンス・ストアなどの店員による接客といった具体例を挙げて、それまでとはやや異質な問題を提示し、論述方針の変更を図っている。」
*第12段落では、具体例を変え、「百貨店とコンビニエンスストア」を題材に「接客方法」を論じているが、この文章の最終テーマである「キャラの設定」に関しての文章となっているので、「論述方針の変更を図っている」というのは間違い。
センター国語「評論」の学習方法
 センター国語に限らず、大学入試国語を解くポイントは ①文章の背景にある頻出テーマの理解 ②与えられた文章を全体のテーマを巨視的に抑えつつ、細部を微視的に論理的に読解する力 ③設問で求められているものを正しく理解し、選択肢をしっかりと識別する力 の3つです。
 ①に関しては、そもそも現代文の文章というのは一般的に「現代社会・現代世界が抱える問題点に対して、それを指摘し解決していこうと」いう意図のもとに書かれているのです。ですから、「現代社会・現代世界が抱える問題点」をしっかりと把握し理解していく必要があります。もちろんそのすべてを受験生が知ることはできませんが、その中でもいくつかの重要なテーマを事前に掘り下げて理解しておくことで、問題点や考え方というのはさまざまな点でリンクし、類似し、重複します。そのような受験生は初見でも、ある程度しっかりと筆者の指摘する問題点や意見を見抜き考えることができます。学習方法としては、「現代文のキーワード」と称する参考書を見ながら、多くの受験現代文を読み、それぞれのテーマに対して自ら関心を持ち、考える事が重要です。(「現代文のキーワード」と称する参考書ですが、多くのこの種の参考書は語彙辞典のようになっていてだめです。辞書的な語の定義ではなく、そのキーワードの背後にある思想や考え方を丁寧に説明し述べているものがよいです。)
 ②に関しては、まず文章全体のテーマとそれに対する作者の方向性を、20~30字程度の文で頭に想起しておきます。その上で、「対比」「類義表現・繰り返し」「問題提起」「順接・逆接」「比喩」に注目して読み込んでいきます。ここはテクニカルなものも必要になりますので、なかなか一人では対処できない部分が多いと思います。しっかりと授業を受けて身につけていく必要があります。
 ③に関してはどんなに読解力があっても、結局、問題ができなければ0点というのが試験の悲しい性質です。しっかり本文で読み込んだ部分をいくつかのポイントにわけ、そのポイント別に選択肢を絞り込んでいく作業に慣れる必要があります。また、微妙なニュアンスや細かい表現で判別するものもあります。選択肢をどうさばくか、これは受験生の永遠の課題になります。とにかく、センター式の問題集を数多く解き、なぜ自分はその選択肢を選んだのかを、徹底的に意識して、根拠を持って解いていく、時間があればその根拠をしっかりとした日本語で余白に書き込んだ上で正解を選ぶ、そのような意識的な作業を最も効果的です。
 1年後に向けて、さぁ、頑張りましょう!