森山のセンター国語全問詳解 ~2015(一)評論~

*問一  (ア)⑤ (イ)⑤ (ウ)② (エ)④ (オ)④  各2点
(ア)垂れる  ①心酔 ②睡魔 ③無粋 ④自炊 ⑤懸垂
(イ)大概   ①外泊 ②弾劾 ③形骸 ④感慨 ⑤概要
(ウ)潤沢   ①循環 ②湿潤 ③殉教 ④巡回 ⑤純度
(エ)端的   ①丹精 ②枯淡 ③大胆 ④発端 ⑤探求
(オ)奏で   ①捜査 ②双眼 ③一掃 ④奏上 ⑤操業
同音異義語(大概ー対外、丹精ー端正)、難語(枯淡、弾劾)、間違いやすい字(感慨ー概要)に注意。
*問二  ③  8点
傍線部A「『教えて君」よりも『教えてあげる君』の方が、場合によっては問題だと思います」とあるがそれはなぜか。その理由の説明として最も適当なものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
*まずは、「なぜか」「その理由の説明」という設問なので、傍線部分前後から理由を述べている箇所を探す。
*さらに「問題だと思います」という傍線部分から、問題となる行為の理由箇所を探す。
*すると、傍線部分直前に「だから僕は『教えて君」よりも・・・」とある。
*「だから」は結果示す接続語なので、理由は「だから」の前にある。
*4ページ5行目「自分で調べてもすぐにわかりそうなのに、どういうわけか他人に質問し、そして誰かが答える。そして両者が一緒になって、川が下流に流れ落ちるように、よりものを知らない人へ知らない人へと向かってしまうという現象があり、これはナンセンスではないかと思います。」
*「これはナンセンスではないかと思います」というのは問題となる行為であるので、この部分が解答の基準。
*この部分を要約すると「『教えてあげる君』が安易に教えることにより、知識が下流に流されてしまう(知的レベルが下がる)だけで、上流に知識が向かう(知的レベルが上がる)ことがなくなるという問題点がある」ということになる。
*「知識が下流に流されてしまう(知的レベルが下がる)」というポイントをクリアしているのは①「『教えて君』の知的レベルを著しく低下させる弊害をもたらすことにもなる」 ③「社会全体の知的レベルが向上していかないことにもなる」 ④「自分自身の知的レベルが向上していかないことにもなる」 の3つ。
*この中で本文のテーマとなる「啓蒙」という語は、社会全体の人々に正しい知識を与え、合理的な考え方をするように教え導く意味なので、①や④の「教えて君」や「自分自身」という個人の知的レベルの低下を問題にしているわけではない。
*①は「『教えてあげる君』は『教えて君』に対して無責任な解答をする」という点が誤り。
*④は「『教えてあげる君』は社会全体の知的レベルを向上させなければならないという義務感にとらわれており」という点が誤り。
*よって正解は③になる。
*問三  ②  8点
傍線部B「メロディーを書こうとする音楽家にとっては、これはなかなか厳しい問題かもしれません」とあるが、それはなぜか。
*「なぜか」という設問であるが、傍線部分前後に直接理由を述べている表現は見当たらない。
*傍線部の「これ」という指示後の内容を明確にして考える。
*指示語「これ」の示す内容は、直前部分の「だから誰かがふと思いついたメロディーが過去に前例があるということは、確率論的にも起き易くなっていることであって、ある意味不可避だと言ってもいい。新しいメロディーが、なかなか出てこないということは、それだけ過去に素晴らしいメロディーが数多く紡ぎ出されたということです」を示す。
*さらに「これはなかなか厳しい問題」という点から、この「新しいメロディーが、なかなか出てこないということ」が音楽家にとって「厳しい問題である」ということになる。
*ここで重要なのは「新しいメロディー」が生み出せないことである。似たような曲が多くなり、完全に独自の「新しいメロディー」が作り出せない点が問題なのである。
*「完全に独自の『新しいメロディー』が作り出せない点が問題」というポイントをクリア―できているのは、②「自分が考え出したメロディに前例がある可能性が高くなるため、オリジナルな曲を作ることが困難になってきているから」しかない。
*③では「過去のメロディを自作の一部として取り込むことが避けられなくなってきている」とは本文に書かれていない。
*⑤では「過去に作られたメロディとの違いを確認する必要が出てくるため、過去の膨大な曲を確認する時聞と労力が大きな負担になってきている」とは本文に書かれていない。
*問四  ④  8点
傍線部C「『歴史』の崩壊」とあるが、それはどういうことか。
*「歴史」と「崩壊」いう語に注目し、類似表現箇所を傍線部分前後から探す。
*11段落4行目に「時間軸に拘束されない、崩壊した『歴史』の捉え方」という表現がある。
*そこで、「『歴史』の崩壊」とは「時間軸に拘束されない『歴史』」ということになる。
*ここを手掛かりにもういちど傍線部分前を読むと、9段落に「しかし、それでも『歴史』を『物語』的に綴る/読むことはできてしまう。なぜならば、そこには「時間」が介在しているからです。過去から現在を経て未来へと流れてゆく「時間」というものが、そのあり方からして「物語」を要求してくる。「物語」とは因果性の別名です。だからひとは「歴史」を書くつもりで、ついつい「物語」を書いてしまう。」とある。ここでは「歴史」-「時間」-「物語」-「因果性」という関係性に注目する。
*一方で、10段落に「しかしネット以後、このような一種の系譜学的な知よりも、『歴史』全体を「塊」のように捉える、いわばホーリスティックな考え方がメインになってきたのではないかと思うのです。これはある意味では「歴史」の崩壊でもあります」とある。すなわち、「ネット以降」は、9段落でも述べた「歴史」-「時間」-「物語」-「因果性」という関係性が崩れたことを意味している。
*さらに、なぜ「ネット以降」にこのような現象が起きたかについては、8段落で「特にネット以後、そういった「歴史」を圧縮したり編集したりすることが、昔よりもずっとやり易くなりました。というよりも、そういう圧縮や編集が、どんどん勝手に起きてしまうようになった。何事かの歴史を辿る際に、どこかに起点を設定して、そこから現在に連なっていく、あるいは、現在から遡行していって、はじまりに至る、ということではなくて、むしろ時間軸を抜きにして、それを一個の「塊=マッス」として、丸ごと捉えることが可能になった」とあり、「ネット以降」「時間軸を抜き」にした「塊=マッス」として歴史をとらえる考え方がクローズアップされている点にも注目する。
*「時間軸に拘束されない『歴史』」「『歴史』-『因果性』という関係性が崩れた」というポイントをクリアーする選択肢は ②「多くの出来事を因果関係から説明し、それらから構成された物語を歴史と捉える理解の仕方が人々に共有されなくなってしまったということ」 ④「出来事を時間の流れに即してつなぐことで見いだされる因果関係を歴史と捉える理解の仕方が権威を失ってしまつたということ」 ⑤「時間的な前後関係や因果関係を超えて結びつく過去と現在とのつながりを歴史と捉える理解の仕方が通用しなくなってしまったということ」 の3つに絞られる。
*ただし、⑤は前半部分で「累積された膨大な情報を時間の流れに即して圧縮したり編集した
りすることが容易になったため」と「時間」という概念を認めているので誤り。
*②と④を比べた時に、「歴史」を「時間軸を抜き」にした「塊=マッス」として捉える点が述べられているのは、④の「過去の個々の出来事を時間的な前後関係から離れて自由に結びつけられるようになったため」という部分なので、答えは④となる。
*②の「累積された過去に内在する多様性を尊重することが要求される」という部分は本文に記述がない。
*問五  ②  8点
この文章全体を踏まえ、「啓蒙」という行為に対する筆者の考えをまとめたものとして最も適当なものを、次の①~⑤のうちから選べ。
*「この文章全体を踏まえ」とあるが、文章全体で重要になるのは結論であり、結論部は文章末にあることが多いので、11段落をベースにして考える。
*11段落6行目から「だから、ここまでくると、啓蒙も必要なのかもしれないという気持ちが、僕にも多少は芽生えてきました。けれども、やはり僕自身は、できれば啓蒙は他の人に任せておきたいのです。啓蒙を得意とする、啓蒙という行為に何らかの責任の意識を持っている人たちがなさってくれればよくて、僕はそれとは異なる次元にある、未知なるものへの好奇心/関心/興味を勅激することの方をやはりしたい。」とある。
*まとめると「啓蒙は必要」「啓蒙は他の人に任せる」「僕(筆者)は啓蒙ではないこと(好奇心を刺激すること)をしたい」となる。
*「啓蒙は必要」だが、「啓蒙は他の人に任せる」「筆者は啓蒙ではないことをしたい」=「啓蒙はしない」というポイントを基準に考える。
*①「単に他者を啓蒙するだけにとどまらず」→啓蒙はしないので誤り。
*②「啓蒙という行為の必要性は高まり続けている」「その作業を率先して担うよりは、好奇心を呼び起こす・・・側に身を置き続けたい」→正しい。
*③「あえて地者を啓蒙する場にとどまり続けたい」→啓蒙はしないので誤り。
*④「啓蒙という行為に積極的に関わる」→啓蒙はしないので誤り
*⑤「啓蒙という行為の意義は高まる一方である」→ここは正しい
*⑤「あえて啓蒙の意義を否定し」→筆者は、啓蒙は他の人に任せ、自分が啓蒙をしないだけであり、否定しているわけではない。
問六  ③ ④  各5点
この文章の表現に関する説明として適当でないものを、次の①~⑧のうちから二つ選べ。
①筆者は「教えて君」「教えてあげる君」を批判しているので、親しみの気持はない。
②第3段落後半から筆者の考えの説明に入り込んでいる。
③「そのことの方が」という表現を用いることにより、より一層、対比・比較のニュアンスを強くしている。後段落とのつながりを意識したものではない。
④確かに「~ない」という表現は多くなっているが、意識的なものではなく、皇帝の立場から否定の立場に転じてなどはいない。
⑤第3文も第4文も、第2文に対して逆接の働きを持っている。
⑥筆者があえて「かっこ」をつけるのは何らかの意図を持っているからである。
⑦「ある意味」という語が特に何かを示す指示語ではないので、婉曲表現である。
⑧親しみを持つ表現ならば敬語は用いない。
センター国語「評論」の学習方法
 センター国語に限らず、大学入試国語を解くポイントは ①文章の背景にある頻出テーマの理解 ②与えられた文章を全体のテーマを巨視的に抑えつつ、細部を微視的に論理的に読解する力 ③設問で求められているものを正しく理解し、選択肢をしっかりと識別する力 の3つです。
 ①に関しては、そもそも現代文の文章というのは一般的に「現代社会・現代世界が抱える問題点に対して、それを指摘し解決していこうと」いう意図のもとに書かれているのです。ですから、「現代社会・現代世界が抱える問題点」をしっかりと把握し理解していく必要があります。もちろんそのすべてを受験生が知ることはできませんが、その中でもいくつかの重要なテーマを事前に掘り下げて理解しておくことで、問題点や考え方というのはさまざまな点でリンクし、類似し、重複します。そのような受験生は初見でも、ある程度しっかりと筆者の指摘する問題点や意見を見抜き考えることができます。学習方法としては、「現代文のキーワード」と称する参考書を見ながら、多くの受験現代文を読み、それぞれのテーマに対して自ら関心を持ち、考える事が重要です。(「現代文のキーワード」と称する参考書ですが、多くのこの種の参考書は語彙辞典のようになっていてだめです。辞書的な語の定義ではなく、そのキーワードの背後にある思想や考え方を丁寧に説明し述べているものがよいです。)
 ②に関しては、まず文章全体のテーマとそれに対する作者の方向性を、20~30字程度の文で頭に想起しておきます。その上で、「対比」「類義表現・繰り返し」「問題提起」「順接・逆接」「比喩」に注目して読み込んでいきます。ここはテクニカルなものも必要になりますので、なかなか一人では対処できない部分が多いと思います。しっかりと授業を受けて身につけていく必要があります。
 ③に関してはどんなに読解力があっても、結局、問題ができなければ0点というのが試験の悲しい性質です。しっかり本文で読み込んだ部分をいくつかのポイントにわけ、そのポイント別に選択肢を絞り込んでいく作業に慣れる必要があります。また、微妙なニュアンスや細かい表現で判別するものもあります。選択肢をどうさばくか、これは受験生の永遠の課題になります。とにかく、センター式の問題集を数多く解き、なぜ自分はその選択肢を選んだのかを、徹底的に意識して、根拠を持って解いていく、時間があればその根拠をしっかりとした日本語で余白に書き込んだ上で正解を選ぶ、そのような意識的な作業を最も効果的です。
 1年後に向けて、さぁ、頑張りましょう!