サルでもわかる量子論 第3回 ~エネルギーはとびとび~

第3回 プランク定数の発見 ~エネルギーはとびとび~
時は19世紀後半、ドイツのアルザス・ロレーヌ地域のことである。この地域は、石炭が多く採掘できることで知られおり、ドイツ政府は、国を挙げてこの付近に製鉄業を興した。
製鉄業では、石炭と鉄鉱石を溶鉱炉にいれ、高温で溶かして鉄をつくる。この際、溶鉱炉内の温度を正確に知ることが重要なのだが、鉄が溶けるような数千度の温度を測れる温度計など存在しない。では、どうしていたのか?
モノは燃やすと、温度に応じて、さまざまな色の光を出す。そこで、技術者が炉の穴から中を、ひょいとのぞく。すると、いまは赤いから2000度ぐらい、さらに白っぽくなったから、およそ4000度といったように、溶けた鉄の色の変化で温度を判断した。いわば、彼らの長年の経験とカンが頼りだったわけだ。しかし、技術者の間では「経験やカンなどに頼らないで、溶鉱炉内の温度を正確に知る方法はないものか」という声があった。その声に答える形で多くの物理学者が、この問題に取り組みはじめた。
数多くの実験や測定が繰り返され、ある温度で熱せられモノが、どんな色の光を、どれだけ出すかが、詳しく調べられた。実験結果は大体まとまったのだが、なぜ、そのような結果になるのか、その原理が、うまく説明できなかった。それをきちんと理論づけようという試みを、物理学では「黒体放射の問題」と呼んだ。
「黒体放射の問題」に関して2つの式があった。

レイリーとジーンズの式  U(\nu)dv=\frac{8\pi\nu^3}{C^3}KTdv
ウィーンの式  U(\nu)dv=\frac{8\pi\nu^2}{C^3}\frac{K\beta\nu}{e^\frac{\beta\nu}{T}-1}dv

レイリーとジーンズの式では振動数の少ないところでは一致したが、振動数の多いところでは一致しなかった。また、ウィーンの式では逆に、振動数の多いところでは一致したが、振動数の少ないところでは一致しなかった。
さて、ここで登場するのが、量子論の扉を開いた、マックス・プランクだ。
Clipboard01プランクが、ベルリン大学の教授であったころ、上記の式が話題になっていた。プランクもこの式に興味を持って研究していたが、1900年の秋に、ベルリン大学のセミナーで、この式を解説する予定になっていて、黒体放射の問題を整理していた。
プランクは、レイリーとジーンズの式、そして、ウィーンの式を見ながら、こう考えた。二つの式のうち、一方の式は、振動数の少ない時の実験結果に一致する。もう一方の式は、振動数の多い時の実験結果に一致している。ということは、「この二つ式の特徴を、うまくつなぐことができれば、黒体放射のスペクトルを説明できる式になるのではないか」と。しかし、実際には、どうすればいいのかわからない。
このとき、プランク教授の助手が、両式をいじくり回しているうちに、とんでもないことを言い出した。
「ウィーンの式の分母から1を引くと、実験結果にぴったりの値になります!」
「本当だ、気味が悪いくらいよく一致するなあ。」
そして、これが秋のセミナーで発表され、12月14日に、今度は学会で講演された。まだその時は、プランク自身にも、その式が持つ重大な意味は実際にはわかっていなかったのだが、それでも彼は娘に言ったという。「もしかすると、お父さんは、大変な発見をしたのかもしれないぞ。」(でも本当に大変な発見をしたのは「お父さんの助手」だったんだけどね。)
このようにウィーンの式の分母から1を引いてやると、これが不思議義に黒体放射の実験結果とピッタリくることがわかった。これが、量子論の扉を開くキッカケとなった「プランクの公式」である。

プランクの式  E=h\nu

そしてここからさらにあれこれ発展させて(この部分はムズカシくなるので省略しておこう)、以下のような式に至るのである。

プランクの式     (光のエネルギー)=(プランク定数)×(振動数)

この式の中の定数hは「プランク定数」と呼ばれ(h=6.626×10-34[ジュール・秒])、物理学における基本的な定数となった。
この式の中には、じつは革命的な考え方がひそんでいる。どんな考えかというと、振動数νである光のエネルギーは、1h\nu2h\nu3h\nu・・・というように、とびとびに変化し、0.5h\nu1.25h\nuなどの半端な値はとれない、というものだ。つまり、「光のエネルギーは、必ず、ある決まった、とびとびの値を取る」、別の言い方をすれば「光のエネルギーは連続的ではなくて、非連続的に変化する」ということなのだ。
ある値が「とびとびの値を取る」とか「非連続的である」などという考え方は、古典物理学の中には、まったくない。古典物理学では、すべての量は切れ目なく連続的に変化できるものとされていたからだ。このように非連続的で、とびとびの値しかとらない量について、その単位量を「量子」と呼ぶ。少し難しい言い方だが、光のエネルギーは、hνが量子なのである。

ここで、古典物理学の「常識③ エネルギーなどを含めたすべての物理量は連続量である」 は覆されることとなった。しかし、古典物理学全体を覆すにはもう少々時間を要する。